【激しくネタバレ】アサイラム監禁病棟と顔のない患者たち、認知症を初めとして精神疾患に関わる医療者にエッジの効いた問題を叩きつける世紀末医療ホラーミステリーだよ!
2014年のアメリカ映画、「アサイラム 監禁病棟と顔のない患者たち」の感想です。
激しくネタバレする上に映画レビューと全然違う視点で観ていますのでご気分を害されそうになったらUターンでお願いします!
もくじ
あらすじ
イギリスオックスフォード大学にて、ヒステリー患者の講義が行われていた。美しい女性患者は無神経に講義をする教授を無視し、学生に助けを求める。私はまともだ、と。しかし誰も助けることはできない。なぜなら彼女はモルモットだから。講義は進み、次の患者と交代する。
すれ違う患者たち。すれ違うモルモットたち。
***
研修医ニューゲートは、郊外の奥地にある閉鎖病棟へ勉強のためにやってきた。ラム院長1人で運営されているその病院は、開放的で学校で習ったものとはまるで違った。
現代精神医療の治療では、患者は檻のような個室に閉じ込められ、薬漬けにされ、様々な治療法と称した拷問にかけられているのが普通であったが、ここでは患者は自由に廊下を行き来し、クリスマスのディナーまで医師と共に食卓を囲むのである。
クリスマスパーティでは美しい女性患者イライザがピアノを演奏していた。それに合わせて他の患者がダンスを踊る。ニューゲートは彼女に見とれるのであった。
ディナーの食卓にてニューゲートはフィンに酒を勧められるが、イライザが飲むことを阻止する。そしてイライザはニューゲートに「ここから逃げて」と訴えた。ニューゲートは混乱するも滞在を続けるが、施設内の地下に牢獄を発見する。中にいたのはこの病院の、元々の医師や職員たちであった。
彼らによると今病院にいるのは全て患者のみであり、ラムたちにより薬を盛られ監禁されたとのことだった。本物の院長はニューゲートにここから解放するように訴える。ラムにもし見つかれば、殺されるとも。
ニューゲートはラムと側近フィンの目を盗み食べ物や薬を監禁されている医師たちに与え凌ごうとする。古い看護師に薬を与えていると、看護師から「ラムを癒すには、ラムが一番長くいた場所に行くのが良い」と言われた。ニューゲートの目にラムは患者ではなく、犯罪者として見えていたが、この言葉によってニューゲートは気づく。
ニューゲートはラムの”独房”に行き、そこに古い写真が隠されていることを知る。
***
ニューゲートによって命を取り留めていた医師たちであったが、本物の院長がラムによって電気ショックをされ廃人にされてしまう。
それを機にニューゲートはラムや全ての患者に薬を盛って眠らせ、医師たちを解放しようとするが、フィンに見つかり囚われてしまう。ラムは裏切りを知り、ニューゲートに電気ショックを与えようとする。
一瞬の隙をつき、ニューゲートはラムに”独房”に隠されていた写真を見せた。その写真は古い兵士の写真であり、ラムはその兵士の幻覚を見てフラフラと何処かへ去ってしまう。
イライザにより救い出されたニューゲートはラムを追い”独房”へ向かった。そこには幻覚を見て混乱するラムが泣き叫んでいた。
***
戦場のテントにて。担ぎ込まれる重症の兵士たち。切断された腕。苦しむ兵士の声。軍医であったラムは、苦しむ大勢の負傷者たちを1人1人ピストルで撃ち殺していく。あの写真の若い兵士を殺し、最後に自分のこめかみを打とうとするが、何度トリガーを引いても弾が出ることはなかった・・・。
***
「私は救ったのだ」と泣き崩れるラムを、ニューゲートは抱きしめた。
そして時は過ぎ、病院には平和が戻った。
元々の職員たちが解放的な病院内で、患者の世話をしている。そこに「ニューゲート」を名乗る、中年の紳士が現れた。その姿はこの病院と患者たちを救った、あのニューゲートとは全く違う。
混乱する看護師に、その人物は真実を伝えるのであった。
イライザとニューゲートは楽しそうにダンスを踊る。暖かく明るい、病院の庭で・・・。
ネタバレ感想
あらすじ以上にネタバレしますよ!
あらすじを読んで「いい話っぽいな」と思った人向けの感想かもね。
ところで我ながらあらすじがめっちゃよく書けたのでみんなに読んで欲しい。ちゃんと大事なところ隠しているから!
史上初、患者に乗っ取られ病院
現代人の感覚からするとラムの治療法が的確すぎて、最初はただの天才に見えていたのですが、徐々に不穏な感じがしてきて、ああ〜っ医者が1人もいなあああい((((;゚Д゚)))))))とびっくりさせてくれましたw
そのびっくりが面白かったですw
医者がみんな閉じ込められてるの笑えましたwwいや笑い事じゃないんだけどっww
閉鎖病棟って医者が閉じ込めてるイメージなんだけど医者が閉じ込められているのがブラックジョークかwみたいで笑ったw
患者の、患者による、患者のための病院みたいになってた。
乗っ取りって普通犯罪者に支配されたりするものですが、善良な(?)患者に乗っ取られていたのでインパクトがありました。まあ患者っていうか、犯罪者っていうか、微妙な人たちだけども。
アメリカって国は本当に精神疾患に寛容だなあ
この映画、イギリスが舞台ですが2014年にアメリカで作られています。結構最近。
日本だと精神科ってすごい悪いイメージを持つ人が多いのですが、患者さんってパッと見、妖精みたいで可愛い人が多い(まあもちろん狂ってはいるんだろうけど)のが現実ですが、この映画の患者もめっちゃ可愛い人がいっぱい。
馬おじさんとか。チェスおじさんとか。メンヘラ女子とか。ヒロインのイライザもヒステリー患者なのに全然ヒステリックじゃない。イライザはモラハラDV夫のせいでこうなっちゃった感がある。めっちゃまともだもの。
でも最初はおどろおどろしい閉鎖病棟がババーンと登場するから、そんなよくみれば可愛い患者たちがめっちゃ怖く見えた。人間のイメージってほんとクソだな。その眼曇っておるぞ。
そんなキャラたちの症状がめっちゃリアルで、「あーこの人あの病気だ」って素人目にもぼんやりわかるくらい明確に描かれていました。こういう地味なリアルを演出するのってすごいと思う。
舞台は1899年とかなり古い年代で、明らかに間違った治療を頷きながら医者が施しているのですが、そういう歴史的背景を描きながら、最新の治療法が出てくるってのがめっちゃ面白かったです。
ラムの治療法が最先端医療
もともとラムは軍医だったので治療ができるってのは分かるのですが、ラムがやっている精神疾患治療がめちゃくちゃ最先端です。
本物の医者は火攻め・水攻め・ぐるぐる目を回す、とか医者の方がラリってんじゃねーの?みたいな治療法をしているのですが(この時代は本当に真剣にそうしていたのよ)患者だったラムがやっている治療がめちゃくちゃ的を得ているというwww皮肉的な展開がありました。
ラムは患者の薬を止め(本物の医者はヘロイン打ってたガクブル)、仕事を与え、自由に過ごさせていました。もちろん火攻め・水攻め・ぐるぐる目を回すなんてしないよ。アホかっつの。
だからみんな軽快した。この映画で一番優れた医者は悪役のラムなのよね。
でそんなラムもPTSDで最終的には人格崩壊しちゃうんだけど・・・
みんなもご存知PTSDはベトナム戦争でアメリカ兵の気が狂ってしまって問題になった病気です。ラムでまさに同じことが描かれていました。ラムの幻覚のシーンは泣けました。
軽めの医療職の人なら色々考え深いことがたくさん詰まっている感じですね。
ニューゲートもめちゃくちゃ優秀
ラムは最終的に人格崩壊しちゃったのですが・・・最終的には結構幸せそうに暮らしているのよね。ラムの人格崩壊を起こしちゃったニューゲートは医者としてどうなの?とは思うんだけども(笑)、こいつは素人医だから血の通ったことをするんだよね。
荒れ狂う独房のゴリと握手をしたり。メンヘラ看護師の仕事を代わってあげたり。人格崩壊した悪役を抱きしめたり。
ニューゲートがメンヘラの代わりにお婆にご飯を食べさせているシーンは泣けました。
結構酷めの認知症でご飯食べたくない人って多いからね。食べるっていうのは生きることだから、息子を装って食べさせたニューゲートのやり方は私は正しいと思う。優しい嘘ってやつだね。
この映画の中でニューゲートは素晴らしい医者ですが、現実でああいうことはなかなかできないよね。だって食べないならしょうがないか〜で済んじゃうもの。理想の介護だと思います。
どうしても救いようのないやつは死ぬ映画
これもアメリカっぽいなーと思ったのですが、悪役ラムは最終的に幸せになるのに対して、どうしても救えない患者のフィンは焼死します。酷すぎる。
同じ立ち位置なのに何この扱いの差。日本じゃあり得ないね。
まあフィンは、生まれつき悪人みたいな傾向があるから閉じ込めるか殺すかの2択な人なのでしょう。
この映画の殺人者は主にフィンなのよね。ラムはやれとは言ってないのよ。ニヤニヤしているだけで。まあそれが最悪なんだけどね。
しかしフィンはあの性格なのになんでラムに忠誠を誓っていたんだろう?ラムにだけは忠実だったなあ。今思えば解せないのですが、映画を観ているときは特に気になりませんでした。
絶対言わないでおこうと思った最大のオチ
オチが良かった。
夫婦で見ていて2人とも同時に「ええーーッ!!」てマスオさんになった。
そのオチはこのブログを読んでも分かりません!見てない人は最後まで見て( ´∀`)
実は主人公はラム。精神疾患って何だろうを考えさせられた
この映画で最も優れた医師で、最も苦悩した医師なのがラム。ラムは悪役ですがどう考えても主人公っぽく見えて仕方ありません。オチを考えると、なおさら笑
最後に本物院長と2人で仲良くチェスをして、ちゃんと勝つのも良かったですw
老若男女いろんな患者が出てきましたが、この映画の中で行われていた治療は理想的であると同時に、実現不能のように感じました。
閉鎖病棟の中には精神疾患者しかいないから、それを病気ではなく個性として受け入れられていましたが、実際には医者という邪魔者がいて、患者の理想郷を支配しているのかもしれない。
その患者って、本当に病気なのかしら。それは個性ではないの?
もちろん専門医からしたら明確に差が見えているのかもしれないけど、それを病として扱うのではなく、性格として、個性として、捉えてあげられたら良い医療が行えるような気がしています。
私は端くれ者ですがその努力をしてきたので、ラムやニューゲートの治療は純粋に素晴らしいなあと思いました。
電気ショックは置いておいてね。
てなことを考えさせてくれたので、この映画は観てよかったです。
医療者にオススメかな。
暇な端くれ医療者仲間は是非観てくれ!!
ありがとうございました\(^o^)/